労務

2027年1月から標準報酬月額の特例改定が開始|療養・育児・介護で給与が下がったとき会社がする手続き

2027年1月から標準報酬月額の特例改定が開始|療養・育児・介護で給与が下がったとき会社がする手続き

病気の治療や家族の介護などで勤務時間を減らした従業員から、

「給与が下がったのに、社会保険料は前と同じなんですか?」

と聞かれることがあります。

通常の随時改定では、原則として固定的賃金の変動後3か月間の報酬を確認するため、給与が大きく下がっても、すぐには標準報酬月額が変わらないケースがあります。

そこで2027年1月から、療養・育児・介護と仕事を両立するために報酬が急減した場合、一定の要件を満たせば翌月から標準報酬月額を改定できる特例が始まります。

この記事では、企業の人事労務担当者向けに、対象者の要件から会社が行う手続き、本人への説明、給与が戻った後の対応までまとめて解説します。

2027年1月開始の「標準報酬月額の特例改定」とは?

療養・育児・介護と仕事を両立するために働き方を調整し、標準報酬月額が2等級以上下がる場合、一定の要件を満たせば報酬が減少した月の翌月から標準報酬月額を改定できます。

2027年1月1日から適用される制度です。

通常の随時改定との違い

大きな違いは、3か月の経過を待たずに改定でき、固定的賃金の変動がなくても対象になり得ることです。

通常の随時改定2027年からの特例改定
主な対象固定的賃金の変動等により報酬が変わった場合療養・育児・介護による就労調整で報酬が急減した場合
2等級以上の変動必要必要
3か月間の報酬確認原則必要不要
固定的賃金の変動原則必要不要
改定時期原則4か月目報酬が減少した月の翌月
本人の書面同意通常不要必要

たとえば、1月から療養のため勤務時間を減らし、報酬が大きく下がった場合、特例の要件を満たせば1月の報酬をもとに2月から標準報酬月額を変更できます。

特例改定の対象になる3つの要件

「療養・育児・介護による就労調整」「2等級以上の低下が3か月以上続く見込み」「本人の書面同意」のすべてを満たす必要があります。

単に給与が下がっただけでは対象になりません。

要件内容
①就労調整療養・育児・介護と仕事を両立するために勤務時間等を調整している
②報酬の減少標準報酬月額が従前より2等級以上低下し、その状態が3か月以上続く見込み
③本人同意特例改定について本人が書面で同意している

療養・育児・介護の範囲

対象となる事情は次のとおりです。

区分対象
療養本人の傷病の治療等。また、家族の傷病に伴い本人が看護等を行う場合を含む
育児小学校就学前の子を養育する場合
介護要介護・要支援認定を受けている家族を介護する場合

会社と本人の合意のもとで、所定労働時間の短縮や時間外労働の抑制などを行っていることが前提です。

「3か月以上」は実際に3か月待つ必要はない

ここは通常の随時改定と混同しやすいポイントです。

申請時点ですでに3か月経過している必要はありません。

たとえば、「1月から6月まで療養のため勤務時間を短縮する」とあらかじめ決まっていれば、3か月以上続く見込みがあるため、他の要件を満たせば早期に手続きを進められます。

会社が行う手続き

対象となる従業員が出たら、会社では次の流れで対応します。

STEP会社がすること
1療養・育児・介護を理由とした就労調整か確認する
2標準報酬月額が2等級以上下がるか確認する
3その状態が3か月以上続く見込みか確認する
4本人へ影響を説明し、書面で同意を得る
5月額変更届等を提出する
6根拠資料を2年間保存する

STEP1 対象要件を確認する

まず、給与が下がった理由と期間を確認します。

「たまたま今月の残業が少なかった」というだけでは対象になりません。

また、「給与が○万円下がったから対象」という判断でもありません。

減少後の報酬を標準報酬月額の等級表に当てはめ、従前から2等級以上低下するかを確認します。

STEP2 本人へ影響を説明して同意を得る

今回の特例では、本人の書面による同意が必須です。

標準報酬月額を下げると毎月の健康保険料・厚生年金保険料の負担は軽くなりますが、一方で、

  • 将来受け取る厚生年金
  • 傷病手当金
  • 出産手当金

などに影響する可能性があります。

「保険料が安くなります」というメリットだけではなく、将来の給付への影響も含めて説明したうえで同意を得ることが重要です。

STEP3 必要書類を提出する

会社は、主に次の書類を提出します。

  • 被保険者報酬月額変更届(特例改定用)
  • 申立書兼同意書

提出先は、日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所です。

健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合にも提出します。

STEP4 確認資料を2年間保存する

会社は、届出内容を確認できる資料を届出日から2年間保存する必要があります。

たとえば次のような資料です。

  • 出勤簿
  • 賃金台帳
  • 療養の事実を確認できる書類
  • 子の年齢を確認できる書類
  • 要介護・要支援状態を確認できる書類

後から確認を求められても対応できるよう、届出書類と一緒に管理しておくとよいでしょう。

支払基礎日数にも注意

特例改定にも支払基礎日数の要件があります。

原則として17日以上、一定の短時間労働者等については11日以上必要です。

ただし、療養等と仕事を両立するための就労調整によって勤務しなかった日は、一定の場合には報酬の支払いがなくても支払基礎日数に含めて取り扱われます。

一方で、その月の全部について勤務せず、報酬もまったく支払われていない場合は対象外です。

今回の制度は、完全に休業している従業員というよりも、働き方を調整しながら仕事を続けている従業員を想定した制度と考えると分かりやすいでしょう。

給与が元に戻ったときも手続きが必要

特例で標準報酬月額を下げた後、就労調整が終了して報酬が戻った場合も、一定の要件を満たせば会社から届出が必要です。

就労調整終了後の報酬から算出した標準報酬月額が、特例改定後より2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動がなくても再度改定します。

特例対象者は終了予定日まで管理する

実務では、「下げる手続き」は覚えていても、勤務時間が戻った後の手続きを忘れやすいところです。

特例を利用した従業員については、

  • 就労調整の開始日
  • 終了予定日
  • 特例改定後の標準報酬月額

を一覧化しておくと管理しやすくなります。

特例改定後も通常の社会保険手続きは必要

特例改定をしたからといって、その後の随時改定や定時決定が不要になるわけではありません。

その後に通常の随時改定の要件を満たした場合には月額変更届を提出し、毎年の定時決定も通常どおり確認します。

特例対象者だけを別管理にするのではなく、通常の算定基礎届や月額変更届の管理フローの中に組み込んでおくのがおすすめです。

具体例|1月から給与が30万円→22万円に下がった場合

たとえば、標準報酬月額30万円の従業員が、療養のため会社と相談して1月から勤務時間を減らしたとします。

その結果、1月の報酬が22万円程度まで下がり、この働き方を6月まで続ける予定だった場合です。

特例の要件を満たせば、

1月の報酬をもとに、翌月の2月から標準報酬月額を改定できます。

通常の随時改定のように、1月・2月・3月の3か月分の報酬が確定するまで待つ必要はありません。

会社では、2等級以上の低下や3か月以上継続する見込みを確認し、本人へ影響を説明したうえで書面同意を取得し、届出を行います。

社労士の実務ワンポイント|「保険料が下がります」だけで終わらせない

今回の制度で、労務担当者に特に意識してほしいのが本人への説明です。

療養や介護で給与そのものが減っているときに、以前と同じ水準の社会保険料を負担し続けることは、従業員にとって大きな負担です。

その意味で、今回の特例は仕事を続けるための助けになる制度です。

一方、標準報酬月額は社会保険料を決めるためだけの数字ではありません。

将来の厚生年金や傷病手当金、出産手当金などにも関係します。

そのため会社としては、

「今の社会保険料がどの程度軽くなるのか」だけでなく、「今後の給付に影響する可能性があること」まで説明し、本人が判断できる状態をつくること

が大切です。

届出書を提出するだけではなく、従業員が制度を理解して選択できるよう支援するところまで、人事労務担当者の重要な役割だと考えています。

人事労務担当者向けチェックリスト

  • 療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整か
  • 標準報酬月額が2等級以上低下するか
  • その状態が3か月以上続く見込みか
  • 支払基礎日数の要件を満たしているか
  • 本人へ社会保険料・年金・各種給付への影響を説明したか
  • 本人から書面による同意を得たか
  • 月額変更届・申立書兼同意書を提出したか
  • 根拠資料を届出日から2年間保存できているか
  • 就労調整の終了予定日を管理しているか
  • 給与が戻った際の再改定を確認する仕組みがあるか

よくある質問

Q.2027年から給与が下がったら、社会保険料をすぐ下げられますか?

給与が下がっただけでは対象になりません。

療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整による報酬減少で、標準報酬月額が2等級以上低下し、その状態が3か月以上続く見込みがあるなどの要件を満たす必要があります。

Q.標準報酬月額の特例改定は誰が対象ですか?

療養・育児・介護と仕事を両立するために働き方を調整し、報酬が急減した従業員が対象です。

ただし、標準報酬月額が2等級以上低下することや、3か月以上続く見込みがあること、本人が書面で同意していることなどの要件があります。

Q.標準報酬月額の特例改定はいつから適用されますか?

2027年1月1日から適用されます。

要件を満たした場合は、報酬が減少した最初の月の報酬をもとに、翌月から標準報酬月額を改定できます。

Q.通常の随時改定との違いは何ですか?

3か月分の報酬確定を待たずに改定できる点が大きな違いです。

また、今回の特例では、通常の随時改定のような固定的賃金の変動がなくても対象になる可能性があります。

Q.会社はどんな書類を提出する必要がありますか?

主に、

  • 被保険者報酬月額変更届(特例改定用)
  • 申立書兼同意書

を提出します。

日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出し、健康保険組合加入事業所の場合は健康保険組合にも提出します。

Q.本人の希望がなくても会社から手続きできますか?

できません。本人の書面による同意が必要です。

標準報酬月額の引下げは社会保険料を軽減する一方、将来の厚生年金や傷病手当金、出産手当金などに影響する可能性があるためです。

Q.給与が元に戻ったら会社は何をすればいいですか?

就労調整終了後の標準報酬月額が、特例改定後より2等級以上上昇した場合には再度届出が必要です。

報酬が戻った最初の月をもとに標準報酬月額を改定するため、特例利用者の就労調整終了時期まで管理しておきましょう。

まとめ|対象者が出たときすぐ動ける社内フローを

2027年1月から、療養・育児・介護と仕事を両立するために報酬が大きく下がった従業員について、一定の要件を満たせば翌月から標準報酬月額を改定できる特例が始まります。

会社側で特に押さえておきたいのは、次の4点です。

  • 2等級以上の低下・3か月以上継続の見込みを確認する
  • 本人へ影響を説明し、書面で同意を得る
  • 月額変更届等を提出し、資料を2年間保存する
  • 就労調整終了後の再改定まで管理する

制度を知っているだけでは、実際に対象者が出たときスムーズに対応できません。

2027年1月の施行までに、対象者の確認方法や本人への説明、届出、終了後の管理まで含めた社内フローを整理しておくとよいでしょう。

コンダクトでは、社会保険労務士による人事労務の実務支援に加え、社会保険手続きの確認や対象者管理など、毎月繰り返す労務業務の仕組み化も支援しています。

「制度改正のたびにExcelや担当者の記憶で管理している」「社会保険手続きの確認漏れを減らしたい」といったお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。


参考

厚生労働省「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての健康保険法及び厚生年金保険法の標準報酬月額の保険者算定の特例について」(令和8年7月31日)

社会保険・標準報酬月額に関する記事はこちらもご覧ください。

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植西 祐介
コンダクトグループ(株式会社コンダクト/税理士法人コンダクト/社会保険労務士法人コンダクト) 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士